医薬品のネット販売は「価格」こそ争点?

わが国における今後の規制緩和対象の代表例として、最近になり急速に議論が盛り上がっている医薬品のネット販売。各方面の利害が絡んで複雑な様相を呈しているが、フランスでもちょうど似たような状況が起こっているようだ。2月26日付の『ル・フィガロ』紙は、ネットを使って薬を通信販売するということに関する多様な思惑につき、その一端を伝えている(Médicaments: la vente en ligne freinée. Le Figaro, 2013.2.26, p.21.)。
フランスにおける医薬品のネットセールスについて、行政サイドにおける対応はもともと全く熱心ではなかった。それが、2月中旬に出されたコンセイユ・デタでの命令によって、処方箋を要するもの以外の薬品についてはインターネットを介した販売を可能にしなければならなくなり、現在は制度運用のための規則整備を検討している段階にある。しかし相変わらずこの規則案が極めて制限的なもので、ネット販売を実施する薬店は対象品目を全て必ず在庫していなければならないとか、さらには販売価格を店頭と同じ、もしくは(送料の分だけ)高く設定しなければならないといったルールが構想されているようなのだ。
こうした動きに対して、当然のこととはいえ反対姿勢を明確にしているのが、日本での公取に当たる競争委員会である。ブルーノ・ラセール委員長は、「これらの(制限的)方策は(もし実際に取られるならば)極めて遺憾なものです」との見解をはっきりと示す。むしろ彼の主張は、「インターネットは行動的かつ経営刷新に意欲のある薬剤師さんたちにとって、売上げを伸ばすための有効な道具であり、さらに薬局から距離が遠く、あるいはそこに行く時間が取れない消費者にとっても(必要な薬を手に入れる)手段になるものです」といった点にあり、これを実現するためには「ネット上の薬品価格は店頭より高いものであってはならない」と言うべきなのである。つまり競争委員会としては、ジェネリック医薬品の一層の普及と相まって、インターネットを活用することが薬の値段の抑制に結び付くのを狙っているといってよいだろう。
それにしても、日本での同様の議論は「利便性」、あるいは「安全性」に関する点に特化する傾向があるようだが、フランスで価格への影響がはっきりと意識されているところは興味深い。もっとも常識的に考えれば、ネット販売は流通過程の短縮により価格引き下げ効果があり、下手をすると大手業者間での低価格競争を招くおそれがあるというあたりにも、もっと幅広く目配りがされてもよい気がするけれど。