映画産業は今もまだ好調か

巨大シネコンが各地で豊富なラインナップでの上映を行い、根強い人気を誇っているように見られる日本の映画産業だが、地方では休館する施設が相次ぐなど頭打ち傾向もあって、展望は予断を許さないと言われる。さて映画発祥の地の一つであるフランスで、近年の動きはどうだろうか。2月26日付の『ル・フィガロ』紙は、昨年の興行成績等を基に「第七芸術」の現状を探っている(Le cinema a fait le plein de seniors. Le Figaro, 2013.2.26, p.24.)。
メディアメトリ社が毎年調査している映画観客統計によれば、昨年1年間に映画を見に行ったことがあるのは3,890万人で前年比100万人増となっており、ここ10年では630万人も増えている。一方、映画館の総動員客数は2億400万人で、こちらは昨年より少し減少した。映画産業としては総動員数が増える方が(収入増に直接つながりやすいので)より望ましいだろうけれど、とりあえず映画を見に行く機会を持つフランス人が増えているという事実も、それだけ娯楽として安定した地位を保っているという点で、決して悪くないことではないだろうか。
観客層としてまず挙げられるのはやはり若者で、89%が映画を見たと回答しているからその比率はとても高いと言っていい。もっとも、しばしば映画館に出かけるという点では60歳以上の高齢者が他に抜きんでており、2人に1人が定期的に足を運んでいるのだそうだ。彼らが好むのはまずコメディで、昨年はブルーノ・ポダリデス監督「おばあちゃんの葬式」や、ステファンヌ・ロブラン監督、ジェーン・フォンダ出演の「みんな一緒に」などが人気を集めた。さらにドラマ映画では、モーリアックのノーベル文学賞受賞作をクロード・ミレール監督が再映画化した「テレーズ・デスケルウ」や、最近カンヌ映画祭パルム・ドールを獲得したミヒャエル・ハネケ監督の「愛、アムール」なども広く注目されたと言えるだろう。
また、今年の調査でとりわけ浮き彫りになったのは、ごく稀にではあるけれど面白そうな映画を見るといった観客の存在。映画鑑賞は年に1回と答えた人が実に2,540万人にのぼる。これらは主にいわゆる家族層で、「ザラファ」、「ニコ−トナカイの冒険」や日本でも公開された「マダガスカル3」といったアニメ長編、さらにその他の超大作を楽しむ人たちだ。彼らを集客することで大ヒット映画が生まれるわけだから、公開前を中心に効果的な宣伝が欠かせないということになる。
フランス人にとって映画とは、現実をひととき逃れて別の世界を垣間見ることのできる娯楽であり、しかもヒット作から地味な佳作、エンターテイメントから芸術派まで幅広いジャンルや内容のものが揃っている。日本では近年、邦画の台頭が目立つ感があるが、一方でかつてほど多様なフランス映画が見られなくなったという印象も否めない。この記事を読みながら、しばらくぶりにいろいろな作品に触れたくなってきた。