「グラン・パリ」支える高速鉄道計画明らかに

パリの中心市街地は東京とはだいぶ異なりかなり小規模なものだとは思うが、それでも人口は市境(もとの市壁)を超えて郊外に広がり、周辺県や自治体をパリとの連関の中でどのように発展させるかは、かねてから大きな課題となってきた。近年になってようやく形を取り始めた「グラン・パリ」計画はこうした課題に応えようとするもので、構想自体の必然性は大いに認められるものの、財政面等を考慮した実現可能性については、まだ論じられるべき点が少なくないようにも思われる。3月7日付の『ル・モンド』紙は、見直しを経て再策定された高速鉄道計画について、その概要や見通しを説明している(Grand Paris: 200km de metro, 72 gares d’ici à 2030. Le Monde, 2013.3.7, p.11.)。
今回、エロー首相による発表という形で明らかになったのは、その名も「グラン・パリ・エキスプレス」(メトロ拡張)計画。ご存知のようにグラン・パリ計画自体はサルコジ政権時代に打ち出され、関連法の制定、実施主体となる公社の設立などが進められてきた。オランド大統領への政権交代の後も基本的な方向性は引き継がれているが、計画をさらに推し進めるにあたって再度の精査が行われている。鉄道については昨年12月に、パリ交通公団(RATP)の元郊外鉄道部長であるパスカル・オザネ氏がセシル・デュフロ地域間平等・住宅相に対して報告書を提出し、元のプランをそのまま進めた際の資金面の難しさなどを指摘した。今般出された新計画は、既存案の骨子を尊重しつつ、提起された懸念などを考慮したものになっている。
新計画でもっとも大きく変更されたのは、事業終期をこれまでの2025年から2030年へと5年延伸したこと。総整備費用はオザネ報告書で示された300億フランよりはやや少なく見積もられたが、それでも当初の210億フランを大きく上回る270億フランとされている。この資金を調達しつつ建設を進めるには工期の延長が不可避(長期間に分けて少しずつ費用を計上する)という判断になったということだろう。もっとも見積もり増額分のうち30億ドルについては、比較的旅客数が少ないと予想される新路線において、車両やホームのキャパシティを一部節約することで賄うことが想定されている。
「グラン・パリ・エキスプレス」計画は、既存路線(11、14号線)の延伸、新規路線(15〜18号線)の建設及び現行メトロの刷新(システム改善など)から成り、200キロの路線、72の駅が新設される予定というから、極めて大規模な計画と言える。特に壮大なのが新15号線で、パリ市境のかなり外側をぐるりと一周する路線となる。現行の14号線(サン−ラザール、シャトレ、国立図書館などを結ぶ線)は主として南方に伸びてオルリー空港に達し、一方で新しい17号線はシャルル・ド・ゴール空港につながる。総じてこれまで郊外鉄道(RER)が担っていた輸送機能の一部を、メトロの延長・発展形であるエキスプレスが引き受けることになるわけだ。ちなみに運行ダイヤに関する方針もメトロと同じで、時刻ではなく運転間隔で制御していく(3分、5分といった間隔を路線や時間帯によって決め、それを基準に運転する)ことになるという。
今後はまず2014年に複数の路線について一斉に建設準備が始まる予定。どこかの路線から優先的に手を付けるという方針は今のところ存在しないらしく、仮にあったとしても公にはされていないが、これは各地の地元政治家同士のあつれきやつばぜりあい、ひいては疑惑や不正といった問題をできる限り回避したい意向からする「作戦」ということのようだ。
「グラン・パリ」の構想には、現在のパリ中心部への一極集中傾向を緩和し、より拡張的な都市域の発展、さらに「多心型」と言われる都市形態を作りつつ、同時にコンパクトな地域運営を目指す方向性が示されているという。その趣旨はよくわかるし、またパリ市の外延部を公共交通機関の効果を用いて発展させる、特に郊外と郊外を結ぶ線を機能させるという考え方には共感するところもあるのだが、ただ今日的な経済・財政状況の中で、巨額の公共投資を必要とするこれだけの鉄道建設計画が実現できるのか、やはり少なからず疑問がわいてくる。そのあたりはこれからよく見守っていければと思う。