不正木材取引の防止のための施策実施

国内に相当量の森林資源を有していながら、木材需要の約80%を輸入に頼っている日本。輸入元は多岐にわたるが、東南アジアの一部の国では日本が第一位の輸出先になっており、その分それらの国の森林に日本が与えている影響は少なくない。近年、木材の国際取引に適切な秩序を設け、生態系を破壊するような闇雲な伐採を防ごうという動きが盛んになっており、日本もこの流れに確実に沿っていくことが求められている。3月5日付のフランス『ル・モンド』紙は、法規をもって違法伐採防止、不適当な木材取引の抑制に乗り出したEUの現状を伝えている(L’Europe s’arme contre l’importation de bois illegal. Le Monde, 2013.3.5, p.7.)。
EUでは2003年に、国際的な木材の無法な伐採、これら伐採材の広範な貿易流通といった状況を抑制するための行動計画を策定して以来、そのための有効な方策を模索してきたが、最終的にEU市場に対してこうした木材の流入を制限するための法制化を実施するところとなり、3月3日に施行された。今後は、EU内に外部から木材(木板や加工材、パルプ及び家具類なども含む)を最初に持ち込む輸入者は、輸入元の国、木材を産出した地域や具体的な土地の場所、木の種別、輸入量、商品供給者の名称及び支払い額などを全て明らかにすることを求められる。これらの情報から取引に問題がないかどうかの検討がなされ、最終的に違法性が見出された場合は罰則(商品の押収、営業停止、罰金等)の適用も考えられるという。
規則施行翌日の3月4日には、イギリスの環境保護NGOであるグローバル・ウィットネスが、リベリアからの不法木材(輸出許可が政府によって凍結されている土地で伐採した木材)をフランスのナント港経由で輸入した疑いでドイツの業者を告発するなど、施行を期に問題のある取引を正そうとする動きが早速見られた。一方ヨーロッパの木材関連企業や流通業者の間では、NGOに狙い撃ちされるのを防ごうと、非営利組織である「森林管理協議会」(FSC)や「森林認証プログラム」(PEFC)などによってトレーサビリティが確保された原料を入手するようになってきているとも言われる。
伐採材輸出国の一部(現時点ではカメルーンインドネシアなど6か国)では、国として輸出手続の合法性を保証する代わりに、欧州市場へのアクセスを確保する自主的相対協定を、EUとの間で取り決めるという動きが見られる。さらに木材を使用する側の国々では、例えば世界自然保護基金WWF)のフランス支部が、ホームセンター等大規模小売店舗でどれだけ取引の適切性が考慮されているかの調査を行い、「カストラマ(ホームセンター)やイケアは健闘、サン−マクルー(外装材等販売店)やアンテルマルシェ(小売チェーン)では問題点目立つ」等の報告を発表するなど、消費者サイドで問題を見極めるための取組みも進んでいる。
しかし世界銀行等の情報に基づけば、現時点で引き続き世界の木材取引の20%ないし40%に不法性、不適当さが見受けられるというのが実状。実は上記の自主的相対協定の取り決め国であるリベリアから輸出された商品にも疑惑が発生しているなど、健全貿易を目指す現存の施策が必ずしも十全に機能しているとは言えない。EUの新制度によれば不法な取引には罰則適用もありとされているにもかかわらず、フランスではまだ不正を取り締まるための組織の検討も進んでいない状態である。さらにやっかいなのは、中国やブラジルといった、自らも木材を大量に輸出し、また世界的な流通の要ともなっている大国が、こうしたEUの動きにほぼ無反応であること。これはつまり、大きな抜け穴が流通経路に空いたままになっているということであり、その点を踏まえれば、各種の認証・検査を専門とする国際企業、SGS社のロズリーヌ・ドゥフェール氏が「不正交易との闘いは、(上記のような)第三国の協力なしには達成し得るものではありません」という指摘は重要かつ適切なものと考えられる。
それでも、世界の森林資源が全体として持続可能なものになるための取組みはまずもって緒に就いたばかりというところだ。熱帯地方を中心とする森の喪失が今のまま進んだ場合の事態は世界的に非常に懸念すべきものであるだけに、少しずつでも今後前向きな動きが出て来ることが望まれる。