メタンガス発電の効用と限界

豚などの家畜の糞尿からメタンガスを発生させ、これを発電や肥料生産に役立てていこうという環境改善及び資源リサイクルを兼ねた活動がフランスで始まってしばらく経った。一部ではそれなりの有効性も発揮されているが、総じて一筋縄ではいかないというところのようだ。3月30日付『ル・モンド』紙ではこうした活動の実績や展望を改めて確認している(Le gouvernement pousse l’agriculture française à developper la méthanisation. Le Monde, 2013.3.30, p.14.)。
メタン生成を梃子にしたリサイクルは、フランスでは2007年10月の環境グルネル(政官民・NGO等から関係者・識者を一堂に集めた大規模政策立案会議)を機に実施が強く打ち出され、2009年には法律において方向性が明記された。今年3月29日には、ステファーヌ・ル・フォル農相とデルフィーヌ・バト環境相が連名で、6年前の環境グルネルで示された方向をいっそう推し進めることを改めて示し、メタンガス集積所を2020年までに1,000か所整備するという数値目標も具体的に明らかにしたところである。こうした取り組みが目指す点は大きく2つあり、1つは放牧・畜産業から生じる排水に基づく過剰な有機窒素をメタン発酵により処理し、周辺の土壌等を浄化すること、もう1つはメタン発酵により生成するガス(バイオガス)から発電し、電力会社に売却することによって農家に新たな収入源をもたらすこととされている。農家がこうした事業を展開するに当たっては、第3セクターである公共投資銀行(BPI)から、産業イノベーションを名目とした融資枠も設けられているという。ちなみに、メタン発酵後に残る無機窒素を含んだ排出液については、肥料としての再活用が想定されている。
2007年の会議以降、こうした取り組みがようやく現実化しつつあることの背景としては、2011年にメタン発酵からの生成電力を買い付ける価格が引き上げられたことが大きい。さらに今日では、生成したバイオガスを直接天然ガスの一種として購入するルートが作られたことも少なからず意味を持っている。環境・エネルギー管理庁(ADEME)は、同庁が取り扱ったメタンガス施設の建造件数は、2007年の10件から、2011年に66件、2012年に92件と着実に増加しており、今では総件数が約200件に達している。ADEMEは2012年の1年間で、3,700万ユーロの補助金を本件に関して支出している。
一見したところ見事なリサイクルの実現とも思えるこうした活動に、現在立ちはだかっている大きな問題は、かなりの大規模展開でない限り一連の取組みによる採算を確保するのが難しいということ。ブルターニュ地域圏モルビアン県で本件を実践しているジャン−マルク・オンノ氏の場合、これまでに2回、合計約220万ユーロの投資をメタンガス施設のために行っており、この結果発電された分(約350キロワット時)の対価として、フランス電力会社(EDF)から年間38万ユーロの収入を得ている。オンノ氏の施設でバイオガスを作る上では、家畜の糞尿は原料の4分の1にしかならず、2分の1は農地で栽培しているヒマワリ、エンドウ、オオムギなどの堆肥から、さらに残りの4分の1分は廃棄物活用の専門企業、シタ社からの購入で賄っている。彼はこうして糞尿に基づくリサイクルを採算ベースに載せているわけだが、巨額の投資や手広い耕作等の必要性を考えると、よほど規模の大きい畜産業者、農業経営集団、あるいは協同組合などでなければ、ここまでの展開ができるとは思われない。
フランス以上にメタンガス施設からの電力生成が定着している(約7,500か所の施設がある)ドイツの例を見ると、彼の地ではとうもろこしを発酵源として大量に使用しており、これはフランスに適用できる状況ではない。ADEMEでは最近になって、小規模でも運営可能なメタン生成プロジェクトを立ち上げたと言われ、当面はこの結果が実地に利用できるものとなるかが注目されることになるだろう。