レマン湖の底に天然ガスがあるかも

温室効果ガスの削減が世界的課題となる中、新たなエネルギー資源として、北米などを中心にシェールガスの採掘・利用可能性が取り沙汰されるようになって久しい。多々弱点は指摘されつつも、代替資源としての注目度は相変わらず高いといえるが、スイスでもこれに似た天然ガスが地底に眠っているのではという点について、ここ最近強い関心が持たれているという。4月12日付『ル・タン』紙は、レマン湖の底にあるとされる新資源をめぐる最近の動向や今後の見通しについて整理している(Des ≪quantités significatives≫ de gaz découvertes sous le lac Léman. Le Temps, 2013.4.12, p.13.)
湖の東岸、ジャズフェスティバルで名高いモントルー市から南5キロにあるノヴィール村を拠点に、水底に存在することが推定されたタイトガス(砂岩層に貯留する天然ガス)の探索が始まったのは2009年。ジュネーブローザンヌ両市に拠点を有するガズナット社と、モントルー近くのヴェヴェイ市が本拠地のホルディガズ社(両社とも天然ガス流通企業)が共同で設立したガス採掘会社「ペトロスヴィブリ社」が3,650万スイスフラン(約38億円)を投じ、地下3.5キロの現場を掘り進めるという作業を展開した。当時同社は「この事業はスイス国内の地底で天然ガスを発見する機会になると予想され、国のエネルギー調達上の安全性を確保すると共に、その多様化を図ることを可能にするものと言えます」と表明し、非常に意欲的な姿勢を見せていた。ただ探索の結果、確かにタイトガスが存在することは確認されたのだが、これを採掘するために必要な技術や資金といった(部分的にはかなり厳しい)条件も同時に明らかになってきたのである。
ペトロスヴィブリ社ではもうすぐ、本件に関する技術報告書を公表する予定。それによれば、水圧破砕法を慎重に適用しながらガスを掘り出していくのが適当とみられること、その投資額は7億5,000万スイスフラン(約780億円)と推定されることが明らかになる見通しだ。これだけの経費をペトロスヴィブリ社単独で担うことは非常に難しいと考えられているが、第三者を交えた共同開発を目指すのかなど、今後の展望等についてははっきりしていない。
フリブール大学で地質学を研究しているジョン・モサール教授は、「数年前の時点であれば、とにかくこうした資源が見つかれば皆がめでたいという感じだったでしょう。しかし現時点においては同じ発見でもリスクがより感じられるようになり、(引き続き推進するには)追加的な調査が必要だということになるかと思います」と説明している。費用負担の問題も大きな難点の一つだが、さらに現在では、地底の天然ガス活用のメリットよりも、それが環境にもたらす負荷が重大とみなされつつある。水圧破砕法で岩面にある種の穴を開けてガスを取り出す際、周辺にある水や地層に悪い影響を与えないかというのは厳しい論点だ。そうした点も含めて今後本プロジェクトが順調に進むかどうか、まだ紆余曲折は少なくないとみるべきだろう。
仮にペトロスヴィブリ社が何らかの形でこのまま本格的な事業展開に乗り出すとすれば、次の段階では関係する強制当局から採掘許可を取得することが具体的課題となり、その際には当然、環境保護の視点が精査される。さしあたり「水圧破砕に当たっては補助的な薬剤の使用を抑える」ことが最低限の留意ポイントとみられているが、もちろんそれだけではないはずだ。幾多の環境上の課題を乗り切り、かつ採算性も確保できるような事業体が存在するのか、関係者間での調整、あるいは駆け引きといったものがまだ続くことになるとみられる。