意外?ストレス感強いフランス人

「ワーク・ライフ・バランス」というのが良く聞かれる標語(?)になって久しいが、それはつまりそれだけ、多くの人々にとって労働の重荷がのしかかっている、働くことのストレスが厳しいということを意味しているに違いない。しかもこれは日本だけのことではないようで、ヨーロッパ諸国をみても多少なりとも同じような感覚が生じているようだ。5月21日付『ル・モンド』紙別刷り経済面は、仕事のストレスに関連して、フランスのシンクタンク「テラ・ノヴァ」に所属するコンサルタント(「企業の社会的責任」問題担当)、マルタン・リシェ氏の論説を掲載している(Une société sous tension - La France, championne du stress au travail. Le Monde Éco et Entreprise, 2013.5.21, p.7.)。
フランスでは折しも、「雇用の安定化に関する法律」が議会で可決されたばかり。その内容は、労働者の雇用の安定を図ると共に、事業主に対しても一定の場合に柔軟な対応を認めるという複合的なものとなっており、この問題が一筋縄ではいかないことが浮き彫りになっている。そしてこの法律の策定過程での議会内外の議論のなかで、改めて焦点が当てられたのが、労働環境、ひいては労働者が感じているストレスに関する問題であった。
この問題については、欧州理事会の方針に基づき1975年にアイルランドで設立された「欧州生活労働条件改善財団」(ダブリン財団)が、つい先だって全ヨーロッパ的に実施した調査(「『生活の質』に関する第3回欧州調査」)の結果を公表している。それによれば、フランス人(フランスで働く人々)は他の国々の人と比べて、全般的にストレスが強い、もしくはストレス感が大きいらしいのである。
例えば「あなたは日頃ストレスを感じますか」という質問に、「いつも感じる」と答えたフランス人は5%。「ほとんどいつも感じる」が13%、「半分以上のときに感じる」が13%となっているが、この値はいずれもヨーロッパ平均より高い。また全ヨーロッパで53%、フランスで56%の人が「家に帰っても疲れているために家の用事が出来ないことが少なくない」と答えていて、仕事と私生活の折り合いをつけることの難しさを物語っている。しかも過去のデータと比較すると、仕事場におけるストレスはここ数年の間に(経済危機の影響などもあって)高まってきているようにみえる。
さらに昨年末に実施された別の調査(「労働条件に関する第5回欧州調査」)によれば、フランスは働く環境等の面でも(主観的に)他の国に比べて劣った状況にある。つらい姿勢を続けなければならない、化学的・生物学的なリスクにさらされているなどの各項目に対して、いずれもより多くの割合の人々が「そう思う」と答えている。
さて、リシェ氏は本論説で以上のような状況を説明すると共に、これが職場におけるストレスという次元を超えて、社会的なコンフリクト、摩擦感情にまで影響しているのではないかと主張している。生活の質調査でこうした点について訊ねたところ、人種・民族の違い、貧富の差、経営者と被雇用者の格差などが、比較的高い摩擦感情を生み出す源として明らかになった。しかもフランスでは、約55%が貧富の差に基づくコンフリクトが激しいと感じ、約50%の人々が人種・民族の違いによるあつれき感があるとしたが、これらはいずれも欧州平均の数値を大きく上回っているのである。
論説の結語は、こうしたストレスとコンフリクトに満ちた状況を打開するために「信頼と社会統合に裏打ちされたヨーロッパを目指すべきである」というものだけれど、これはあくまで理想であって、近い将来に達成されるとは予想できないだろう。とりわけ日本からみると幸福感が強いのではと思われたフランスで、労働環境やストレス、他者との摩擦感情について主観的に厳しい値が出ているのは少々意外でもあった。大雑把だが、激動する経済を背景に、世界中で「働くこと」をめぐる緊張感が高まっている、ということが言えるのかもしれない。