若年層の雇用対策にもう一歩踏み出せるか

欧州の雇用問題の深刻ぶりについてはあまりに周知のところではあるけれど、近年は特に若年者の職をめぐる惨状がものすごい。債務・経済危機に見舞われた南欧諸国を中心に、目を覆いたくなるようなデータが現実のものとなっている。いかにしてこれを少しでも打開の方向に持ち込むか、そしてそのためには、大局的な経済政策をどう進めていけばよいのか。5月29日付のスイス『ル・タン』紙は、EU当局など政治による雇用問題へのアプローチの動向を伝えている(L’axe franco-allemand décrète l’état d’urgence contre le chômage des jeunes. Le Temps, 2013.5.29, p.15.)。
EUではちょうど前日の5月28日に、若年層失業の深刻さ、そして考えられる対応策についてのレポートを発表した。今年3月現在、EU諸国全体で570万人の若者が仕事を得られておらず、18か国では若年層失業率が20%以上の水準に達している。実はこの問題に関する各国の状況差は非常に大きく、ドイツで8.1%、オーストリア8.7%、オランダ9.5%というように比較的良いスコアの国々もある一方で、ギリシャは55.3%、スペインも53.2%の若者が失業に陥っているという、過酷な状況が明らかにされている。
5月28日にはまた、パリで若者の雇用に関するハイレベルのラウンドテーブルが開催され、オランド大統領、スペインのマリアーノ・ラホイ首相をはじめ、多くの国の経済担当相や労働担当相が参加した。この会議では、多くの雇用の受け皿となる中小企業に対する支援、研究開発の促進、資金アクセスの円滑化、若年労働者の職業・職種移動可能性の確保、技能教育の改善など、多岐に亘るテーマについて実効性のある政策の在り方が論じられたという。続いて30日には、ドイツのメルケル首相がオランド大統領とこの議題に特化して会談することが予定されており、そしてこれらの話し合いの結果は最終的に、6月27、28の両日開かれる欧州理事会の場でとりまとめられ、具体的な対策に結実するものと想定されている。
こうした動きからもすぐわかるように、現在の状況はドイツ、フランスの2か国が、欧州全体の雇用の問題にEUそのものより以上に熱心に取り組もうとしている点に特徴がある。28日の『ル・モンド』紙には、ヴォルフガング・ショイブレ独財務相、ウルズラ・フォン・デア・ライエン独労働相、ピエール・モスコヴィシ仏財務相、ミシェル・サパン仏労働相の4名が共同署名した論説が掲載され、この中で各氏は若年雇用についてもっと迅速に行動を開始するよう強く訴えている。ショイブレ氏は「我々は一世代の間、ただ待っているというわけにはいかないのです」と主張し、EUが有功に機能しないために劣悪な雇用事情がある特定世代の危機として固定されてしまうことに危惧を表明している。一方でモスコヴィシ氏は「欧州ニューディール政策」を発動し、2014年から2020年までの間にヨーロッパ全体で(欧州投資銀行の融資なども含め)60億ユーロを投入して問題解決に当たるべきとの見解を述べている。
これに対してEUの広報担当官は、本件に関する上述のレポートの内容もふまえ、独仏両国が提唱する施策には賛同する意向であることを明言しつつも、まずはEU加盟各国が、昨年6月に欧州理事会で承認された「成長雇用協定」に基づくラインでの行動を始めてほしいと主張する。一方、ブリュッセルに本拠を置くブリューゲル研究所のアンドレ・サピール研究員らは、雇用促進政策は若者世代に限定せず、全ての年齢層に適用させていくべきではないかと主張している。
立場や発想の違いによって意見に多少の相違はあるようだが、ここで顕著に見られるのは、ヨーロッパが雇用問題の改善に向けて、これまでの全面的な緊縮政策から舵を切り、代わって投資の活性化といった成長性を志向する様子が窺えるということだ。若年層の失業をまずとうにかしなければならないという政策上のプライオリティが圧倒的に影響しているものとも考えられるけれど、ある意味では日本でいう成長戦略的なものと符合する部分も少なくないようにも思われる。