バーゲン売り上げに商店の期待高まる

冬(正月前後からスタートするもの)、そして規模は違うが夏にも開催される欧州各国のバーゲンについては、以前もこの欄で取り上げている。バーゲンが年中行事、とりわけ季節の話題となっている状況を反映してか、フランスなどの新聞でこの種のセールが取り上げられることは日本と比べて明らかに多いようだ。そしてこの事情は隣国でも似たものがあり、6月10日付のスイス『ル・タン』紙は、この地における今夏のバーゲンの特徴などをまとめて報じている(Des rabais de 60 à 80% pourraient intervenir dès le début des soldes. Le Temps, 2013.6.10, p.19.)。
記事によれば今回のバーゲンに対しては、商店主側からの期待が特に強いようだ。その理由は、春期の服飾品売上げが著しく振るわなかったことにある。どんよりした天候が普段の年と比べて明らかに長く続き、そのためいわゆる春夏ものの洋服類の販売は顕著に落ち込んだ。春先の休暇で暖かい国に出かける人たちは夏の洋品を購入したけれど、逆に一番売れなかったのは合服として使われる薄手のジャケットなどであり、ショートパンツやタンクトップなども概して低調だった。さらにオレンジ色など、カラフルな色彩の商品がこの春は完全に売れ筋から外れてしまっていたらしい。結果的に各店舗では、長く続いた寒さに合わせ、セーターの販売延長などの対策を講じざるを得ない始末だった。
アパレル及びファッション販売に携わる各社では、もちろん明確な数字は明らかにしないけれど、だいたいどこでも今年これまでの不振は避けがたかったと見られる。個々のブランドは販売のだいたい8ないし9か月前には発注を済ませてしまうため、突発的な天候不順等による調整がなかなか効かない事情がある。ジュネーブを拠点とする服飾販売店舗、ボン・ジェニー・グリーデルでは「1ないし2%の販売減」を記録。パリ発のレディスブランド、クーカイでは「売り上げは低下したが、悲劇的というほどではない」とのことであり、大規模チェーン店であるマノールは一言「微減」と説明している。各店とも、個々の顧客の購入額よりも、足を運んでくれる客の数がこの間大幅に減ったことが痛手になったようだ。
ただ、こうした低迷の結果各社が大量の在庫を抱え込むという状態は、辛うじて避けられたとされる。ボン・ジェニーの親会社であるブルンシュヴィヒ・グループの広報担当、クローディア・トレカドゥラ氏は、「昨年(2012年)の春も、スイスフラン高が要因で販売が苦境に立たされるという経験をしたので、今年は慎重に対処していました」と語り、在庫過剰は限定的であると説明している。こうした状況下で訪れたバーゲンシーズン。折しもここに来て気候は非常に快調・快適であり、店に残っている春夏物を売ってしまうためには極めて好都合だ。フランス語圏スイス消費者連盟(FRC)のヴァレリー・ムステル氏は、「様々な背景から、今年も昨年と同様、バーゲンのスタート時から60%や80%といった大幅OFFの商品が出ると思います」と期待を寄せる。もっとも高級さを志向するブランドでは、セールに出すにしても値引き率は低く抑え、それでも売れなければ数年後、アウトレットショップに持ち込むといった発想もあるらしい。
スイス商業界では、売り上げの20%をバーゲン期に確保しているとも言われ、それだけこのタイミングはかきいれ時ということになるのだが、一方でフランスなど他のヨーロッパ諸国に比べて、スイスのバーゲンは運用が甘い側面も見られる。そもそもフランスでは「バーゲン」に関するれっきとした法規制があり、値引きの定義、開始日等についてはきちんと公に定められている。一方スイスではいつセールを始めるかは各社の自由裁量であり、夏のバーゲンはおおむね6月からということではあっても、日が決まっているわけでもないし、「プレセール」などを敢行する店も少なくない。極端な事例としては、値段を下げることなく「バーゲン品」という表示を掲げることも不当でないのだそうだ。あまり窮屈な規制も面倒だが、安売りが確かになされているのか否かぐらいは、消費者に理解できるようにしておいてもらいたいものだと感じる。