コールセンターの国内引き留め作戦

日本で生産現場アジア諸国等への海外移転が問題になって久しいが、アメリカでは同様の問題を「オフショアリング」という用語でとらえている。英語が国際共通語になっているだけに、生産のみならず、IT技術を介して事務系や開発系の各種業務が言葉の壁なく外国に移転することが、米国内の雇用にとって極めて深刻な問題になるわけだ。フランスもアフリカ諸国に広大なフランス語圏を有するだけに、アメリカと多少とも似たような状況にあるらしい。10月22日付の『ラ・クロワ』紙は、通信販売やアフターサービスなど、各種企業の電話対応部門を請け負って専門に運営する、いわゆるコールセンター業のオフショアリングをめぐる状況と、それに対するフランス政府の取組みについて伝えている(Comment garder les téléconseillers sur le sol français. La Croix, 2010.10.22, p.16.)。
フランスでコールセンターが移転する傾向にあるのは、主にモロッコチュニジアといったフランス語圏の北アフリカ諸国。今夏、テレペルフォルマンス社というコールセンター界の大手企業が、フランス国内で830人の雇用を削減する計画を発表したことから、俄然問題が表面化した。労働問題担当閣外相であるローラン・ボキエ氏は、外国を経由するこの種の電話や通信に対して新たに課税するとまでいったんは息巻いたが、モロッコで問い合わせ電話を受けることにした方がフランス国内と比べて半分の費用で済むという現実がある以上、市場原理を無視した強硬策に出るのもあまり有効ではなさそう。そこで政府が考えたのが、国外移転する企業にペナルティを課すのではなく、国内で雇用を生み出しているこの業界の会社をできる限り称揚するという手法だ。
具体的には、コールセンターを運営する会社のうち一定の要件を満たすものを「社会的責任を果たしている企業」として認証する。要件の中には、利用者の待ち時間が長過ぎないことや、いわゆる顧客満足度の高さなども含まれるが、とりわけ「担当職員のうち60%以上をフランス国内で雇用していること」という条件が重要。ボキエ氏は前回の課税案で相当不興を買ったのか、「この施策の目的は、モロッコでの雇用をフランス本国に引き揚げさせることではなく、雇用を生み出そうという動きをフランス国内でより活発なものにしたいということです」と、かなり抑えた表現で意図を説明しようと努めている。
ボキエ閣外相によれば、コールセンターで働くオペレーターという職種は、比較的熟練を要しない仕事と考えられるため、雇用の拡大が最重要課題となっている現在、この職での雇用が増える(あるいは減らない)ことが特に重要であるとのこと。もっともこれには異論もあって、コールセンター業務一般労働組合のローラン・ウベルティ委員長は、「現在、消費者は基本的な知識をインターネットで入手します。ホットラインに問い合わせてくるのは何か複雑な問題がある時で、そういう時には詳しい知識をもったオペレーターの存在が大事なのです」と語っている。実際、統計で見る限り、海外に拠点を移しているコールセンター業務は全体の20%に過ぎず、しかも最近3年間で特に趨勢の変化はないという。
確かに自分の体験で考えてみても、商品やサービスでわからないことが起きてサービスセンターに電話を掛ける際は、できるだけ詳しい人に短時間で処理してもらいたいもの。単なる販売受付と苦情対応とでは必要とされる人材は異なるだろうが、オペレーターにはおよそ熟練度は不要というのは事実でない。そういう意味では、コールセンターのオフショアリングを、フランスでそれほど過大視しなくてもよいのではということになるが、さて、今回の政策はどのような展開を見せることになるだろうか。