地下鉄構内大規模すり集団の首謀者摘発か

フランス、特にパリ旅行に出かけるからには、やはり日本でのようには気楽な気持ちで動き回るわけにいかない。日本人観光客を狙ったすり、ひったくりの被害は日常茶飯事(『地球の歩き方』パリ篇には必ずこの種の口コミ情報が掲載されている)なので、まずは自分で細心の注意を払うべきところ。それでももちろん、そうした犯罪そのものが多少減ってくれればいいのに…というわけで、12月2日付のスイス『ヴァンキャトルール』紙は、メトロを中心に暗躍していた未成年者すり集団摘発の動きについて報じている(La PJ de Paris démantèle un vaste réseau de bourreaux d’enfants. 24 heures, 2010.12.2, p.10.)。
この報道によれば、パリの地下鉄構内で頻発していたすり犯罪の首謀者として身柄を拘束されたのは、ボスニア出身のフェーミ・ハミドヴィッチという58歳の男。フランスとイタリアの警察当局の連携の結果、合計19名が一斉に逮捕され、現在パリとローマでそれぞれ取り調べを受けている。
ハミドヴィッチ容疑者を中心とする大規模グループは、10歳から15歳までの数百名とも言われる未成年者(主として少女)を抱えていた。彼女らは集団ですりを働き、その「収益」を上納することを常に要求されていて、万が一そうした指令を拒んだ者は激しい暴行を受けたという。ハミドヴィッチ容疑者らはこうした未成年者からのピン撥ねによって、130万ユーロの利益を懐にし、その金を高級車や不動産の購入に充てていたと言われる。未成年者自体は現行犯逮捕されても、多くの場合保護者のもとに帰されるだけで、いずれまた家出して元の木阿弥という感じだったから、3年がかりでグループのボスまで捜査の手を伸ばすことができるのは評価できるだろう。ただ、このグループが地下鉄内のすり被害の4分の3に関わっているという推計は、大雑把過ぎて多少疑問。そうだとすれば、今回の摘発ですりが激減する可能性もあるはずだが、そんなに単純に進むだろうか?それに、同じグループが別のリーダーを立てて活動を続けるおそれもあり得る。報道自体の信憑性も含めて、残念ながら話半分ぐらいに受け止めておくのがよいかもしれない。
なお、今回はスイスの新聞の記事なので、フランス語圏スイスでの状況についても簡単に触れられている。それによれば、ジュネーブなどではハミドヴィッチ容疑者の一味とは異なる、東ヨーロッパ出身の集団が、彼らとほぼ同じ手口で犯罪を繰り広げているとのこと。ヴォー州警察のソーテレル警視は、「数年前から、フランス国内に拠点を置く集団が、フランス語圏スイス国内で未成年者を使った犯罪行為を繰り返しているようです。彼らはすりだけでなく、空き巣狙いも犯しています」と事情を説明。こちらも油断はならないようだ。「人を見たら泥棒と思え」というのは嬉しい格言ではないけれど、やはり当分の間、フランスやスイスの特に大都市を歩いたり観光したりする際には、しっかりと緊張感を持って過ごすことにしよう。