ミシュラン3つ星を誇る唯一の女性シェフとは

その昔、毎週「美味しいお料理とお酒があればこの世は天国」をキャッチフレーズにしていたテレビ番組があったが(古い)、グルメ・グルマンの国フランスではこうした境地がまさに隅々まで行き渡っているような気がする。フランスへの関心を持ち続けている当方もやはり、おいしいものの話題があればそちらへふらふら赴いていく性分。9月16日付のスイス『トリビューン・ドゥ・ジュネーブ』紙は、隣国フランスにあるミシュラン三つ星レストランの女性シェフについて、詳しい記事を掲載している(La folle progression d’Anne-Sophie Pic. Tribune de Geneve, 2011.9.16, p.37.)。
リヨンとアヴィニョンのちょうど中間辺り、ジュネーブからも200キロ弱という距離で行けるローヌ河沿いの街、ヴァランス。ここに店を構える「メゾン・ピック」は、2年前からミシュラン3つ星認定のレストランとなった。当店の特徴は何といってもシェフが女性であること。フランス国内に3つ星数々あれど、女性が料理長を務めているのはここのみというのだから、やはりそれだけで個性が際立っていると言ってよいのだろう。
店主であるアンヌ−ソフィー・ピックさんは、祖父も父親も3つ星レストランのシェフであったという、料理人として極め付けの「血統」の末裔。しかし想像とは異なり、いかにも自然な形で家を引き継ぎ、今の地位に立ったというわけではないらしい。むしろ15年前に、経営危機に陥った店を引き継ぎ、新たな世界に飛び込まざるを得なかったというのが真相というから、今日の実績は少なくとも予定されたものではないと言える。料理についても、普通のコックが先輩を見習い刻苦勉励、ようやく技術を習得するというのとは違い、もちろん父親らの料理から多くを学んではいるものの、そこから自らの独創性をフルに発揮して、今日の店を築き上げている感が強い。一皿、一皿に込めた情熱とインスピレーション、単なる世襲とは異なるアンヌ−ソフィーさんの強さとしなやかさがそこにある。
レストランで実際に出されている料理も、写真と共に記事中で説明されているが、その雰囲気も含めつつここでうまく伝えることは難しい。ただ、野菜の調理法や盛り付けに特に細心の注意を払い、全体として繊細さを前面に出した品々が日々供されていることは確か。担当記者はもうこの店をベタ褒めといった状態で、「2年前の3つ星獲得を超えて、その料理は頂点に達している」「4つ星級の1品」などと絶賛している。まあそこまで言うのなら、いつのことになるかわからないけれど(ヴァランスという街を訪れることがそうはなさそうなので)、いずれはぜひ足を運ぶべく、心に留めておくことにしようか。